「GAFAの天敵」ベステアー氏の退任と今後の巨大IT規制の行方
欧州連合(EU)の巨大IT企業への厳しい姿勢を牽引してきた「GAFAの天敵」と呼ばれるマルグレーテ・ベステアー氏が、年内にも欧州委員会の上級副委員長を退任します。後任にはスペイン副首相で環境派のテレサ・リベラ氏が就任する見込みです。ベステアー氏の強力なリーダーシップの下、GoogleやAppleなどの大手IT企業に対して巨額の制裁金が科され、欧州全体での競争政策が強化されてきましたが、この交代によりEUの巨大ITへの規制がどのように変化するのかが注目されています。
ベステアー氏の実績と「GAFAの天敵」としての役割
デンマーク出身のベステアー氏は、2014年から欧州委員会で競争政策を担当し、Google、Apple、Amazon、Meta(旧Facebook)といった巨大IT企業を相手に何度も裁判を起こし、制裁金を課してきました。特に注目されたのは、Appleに対する税優遇措置に関する裁判で、ベステアー氏は米企業に不正に優遇措置が与えられたとして訴えを起こし、逆転勝訴しました。この勝利は、「欧州市民と税の正義にとって大きな勝利」とされ、ベステアー氏自身も涙ながらに喜びを表現しました。
また、Googleに対しても競争法違反を理由に数十億ユーロの制裁金を課すなど、ベステアー氏は大手IT企業の独占的な市場支配を厳しく取り締まってきました。彼女の厳しい姿勢はしばしば米国からの反発を招き、トランプ前大統領からは「税金レディー」と揶揄されることもありましたが、欧州内ではその果敢な姿勢が評価されてきました。
新たなリーダー、テレサ・リベラ氏の挑戦
ベステアー氏の後任として、テレサ・リベラ氏が欧州委員会の上級副委員長に就任する予定です。リベラ氏は、これまでスペイン政府で環境移行相として再生可能エネルギー導入を推進してきた実績があり、環境政策の専門家として知られています。しかし、競争政策に関しては経験が浅く、専門的な知識が求められる競争法の分野でどのようなリーダーシップを発揮できるかが注目されています。
ただし、欧州委員会内には競争政策を担う職員が引き続き残るため、リベラ氏が直接指導しなくても、これまで通り巨大ITに対して厳しい姿勢が維持されるという見方が強いです。さらに、欧州委員会のフォンデアライエン委員長も、ネット上の偽情報対策や個人情報保護の強化に積極的であり、「デジタルサービス法(DSA)」による監視体制の強化が進められています。このような状況から、欧州全体としては引き続き大手IT企業に対する規制が厳格に行われると見られています。
ベステアー氏が手掛けた巨大IT規制の影響
ベステアー氏の在任中、GoogleやAppleといったGAFAに対する規制が強化され、EU内での競争環境の公正さが維持されてきました。彼女が主導した訴訟や規制は、世界中のIT企業に影響を与え、特に欧州市場におけるGAFAの活動に大きな制約をもたらしました。
ベステアー氏は、EU加盟国の企業間においても規模拡大を厳しく制限してきました。例えば、ドイツのシーメンスとフランスのアルストムの鉄道事業統合を承認しなかったことが挙げられます。これにより、欧州企業であっても競争法に厳格に対処する姿勢が示されました。
リベラ氏が目指す「現代化された競争政策」
リベラ氏の就任に伴い、競争政策にはある程度の変化が見込まれています。リベラ氏は、9月に行われた英フィナンシャル・タイムズのインタビューで、欧州企業の国際競争力に関して「規模の問題がある」と指摘し、規模拡大の必要性を認める発言をしています。この発言は、ベステアー氏が厳しく制限してきた欧州企業の合併や統合に対する柔軟な姿勢を示唆しており、今後の政策に変化が起こる可能性があります。
フォンデアライエン委員長も、リベラ氏に対して「欧州企業が世界をリードできる競争政策の現代化」を求めており、これまでの厳格な競争政策に対して、欧州企業の成長を促進するための合併指針の見直しが行われる可能性があります。
まとめ
マルグレーテ・ベステアー氏の退任は、巨大IT企業に対するEUの競争政策における一つの節目を迎えますが、後任のテレサ・リベラ氏の指導の下でも、引き続き厳しい規制が維持される見通しです。特に、欧州委員会としてはデジタルサービス法(DSA)などの新たな規制を通じて、GAFAをはじめとする巨大IT企業の活動に対する監視を強化し続けるでしょう。
一方で、リベラ氏のリーダーシップにより、欧州企業間での合併や統合に関する政策には一定の柔軟性がもたらされる可能性があり、欧州全体の競争政策が現代化されていくことが期待されています。今後、リベラ氏がどのように競争政策を進めていくのか、特に欧州内外の企業に対する姿勢に注目が集まります。